マーケットシェア神話の崩壊

Market Share

PC 戦争に勝ったのはいったい誰だったのかと、Peter Burrows が問うている。

Peter Burrows はビジネスウィークの敏腕記者として長い間コンピュータ業界を追いかけてきた。また、優れたアップルウォッチャーでもある。最近の Gateway の身売り話が Peter Burrows をして慨嘆させているのだ。

BusinessWeek [Byte of the Apple]: “So who won the PC wars, exactly?” by Peter Burrows: 27 August 2007

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Steve Jobs の原罪

1990 年代末、私がアップルの取材をはじめた頃、我々を含む経済紙の関心の的はアップルの壊滅的マーケットシェアだった。それはすべて Steve Jobs の原罪、すなわち彼が MacOS のライセンスに応じなかったことに端を発しているように思えた。同僚と反吐がでるほど議論したものだが、そのことがマイクロソフトがウインドウズを業界標準とすることを許したのだ。そしてアップルは、不退転の PC 業界のなすがままとなった。彼らは技術革新のほとんどを外注し、アップルのハイコストの製造方法はいずれこの世から駆逐されるものと思われた。

Throughout my first few years of covering Apple in the late 1990s, the focus of the business press coverage (including ours) was about Apple’s disastrous fall in market share–all tied to Steve Jobs’ original sin of not licensing the MacOS. That decision, as my peers and I argued ad nauseum, left the door wide open for Microsoft to set the standard with Windows. That put Apple at the mercy of an indomitable crew of PC makers who outsourced most of the innovation, and seemed destined to snuff Apple and its higher-cost approach to building PCs out of existence.

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最後に残ったのは

しかし、砂を咬んだのは不退転の敵の方だった。Gateway は僅か7億 1000 万ドルで Acer に売り渡された。(Gateway の価値が如何に小さなものになったかということだ。この金額ですら、50%の出資をした株主にとっては非常にいい話に思えたほどだ。一方アップルの時価総額は 1150 億ドルだ。)PC 業界のパイオニア Ted Waitt は、Gateway の問題を解決するために eMachines への売却も含めてありとあらゆる手を打ったが、最高に複雑な製品を売るのにバナナ程度のマージンしかないという難問を解くことはできなかった。

Well, today another one of those once-indomitable foes has bitten the dust. Gateway has been sold to Acer for a paltry $710 million (that’s how low Gateway had sunk; that price was actually seen as a huge premium by shareholders, who raised the stock 50% today. Apple, by the way, has a market cap of $115 billion). Despite throwing every strategy he could think of to fix Gateway’s problems–including selling the company to eMachines–PC industry pioneer Ted Waitt couldn’t figure out the conundrum of selling a highly-complex product that carries the margins of a banana.

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成長神話・マーケットシェア神話

私にとって、これは Jobs のビジネスに対する知恵を思い起こさせるに十分だ。それは、成長より利潤に価値があり、マーケットシェアは戦略の主たる目的ではなく、成功の結果を示す指標に過ぎないという知恵だ。このことを Jobs が 1990 年代末に私に語ってくれたのを思い出す。Jobs が CEO としてアップルに復帰したのはごく最近のことだ。それ以来彼はコストを削減し、アップルを黒字に導いた。それなのにウォール街は未だに成長について難癖をつけている。Jobs 自身は心配しておらず、彼が NeXT Computer にいた不遇の時代に Ross Perot から授かった「収益を維持すれば、あと一日は生き延びられる」というアドバイスに従っている。Jobs のような革新的経営者、アップルのような革新的企業にとって、つぎの一日は、成長の心配を払拭(ふっしょく)する革新的な製品によってもたらされるという意味なのだ。iPod のことをご存知だろうか。

To me, it’s a powerful reminder of the wisdom of Jobs’ approach to business–which values profits over growth, and which values market share mostly as a trailing indicator of success rather than a primary peg of a strategy. I remember Jobs pointing this out to me in the late 1990s. He’d only recently returned as CEO of the company, and had cut costs to bring Apple back into the black, but Wall Street was still carping about growth. He said he wasn’t concerned, and imparted some advice Ross Perot had given him during Jobs’ dark days at NeXT Computer: maintain your profitability, and you’ll be able to live another day. For an innovative executive like Jobs at an innovative company like Apple, that means another day to come out with breakthrough products capable of quickly eradicating those growth concerns. Can you spell iPod?

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強者どもが夢の跡

Jobs の正しさの正反対にいるのが Gateway だ。かつてアップルを苦しめたのは、IBM であり、Dell、Packard-Bell、HP、Compaq だった。見てごらん。IBM は事業から撤退した。Dell はひどく苦しんでいる。Gateway は Acer への身売りのほかに、Packard-Bell 買収の話を発表した。Compaq は HP に買収された。いまや投資家の好む成績を出せるのは HP と Lenovo、それに Acer だけだ。

Gateway is far from the only proof point that Jobs was right. Back in the day, Apple’s main tormentors also included IBM, Dell, Packard-Bell, HP and Compaq. Now look. IBM is out of the business. Dell is struggling mightily. Gateway announced, in conjunction with the Acer deal, that it would buy Packard-Bell. Compaq was bought by HP. Indeed, only HP, Lenovo and Acer are putting up numbers an investor could love, or even much like.

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成功したのは誰か

しかし、いずれもアップルほどいい成績はあげていない。売り上げ台数でみるとアップルは PC マーケット全体の3倍の成長率を示し、収益は売り上げを遥かに上回って伸びている。アップルが成功したというといろいろ議論もあるだろうが、しかしマーケットシェアに固執する古い神話は確実に死んだのだ。Acer の動きによって一番失うものが大きいのは明らかに Lenovo だが、Gateway を獲得することによって Acer がアップルを遥かに越えて有利な地位に立つのかもしれない。誰にも分かりはしない。アップルの株が今日 2.25% 下落したのはそのせいかもしれないのだ。そうだとしても、まさにアップル株の買い時じゃないか。

But none are doing as well as Apple. The company continues to grow at three times the overall PC market in unit sales, and profits are soaring even more than revenues. Still, while it’s hard to argue with Apple’s success, that old obsession with market share dies hard. While Lenovo clearly has the most to lose from Acer’s move, many articles mentioned that the Gateway acquisition would vault Acer well ahead of Apple, as well. Who knows, maybe that contributed to the 2.25% drop in Apple shares today. If so, it’s a buying opportunity.

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成長を遂げる手段として買収による整理統合の途を選ぶ背景には、マーケットシェアの大きいことがいいことだという神話がある。

本当にそれでいいのか。シェアは小さくても、それなりの利潤を上げることがまず大切なのではないのか。Steve Jobs を見てみろ、と Peter Burrows は慨嘆しているように見える。

マーケットシェア神話の呪縛はそれほど大きいということだろう。

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参考:

・BusinessWeek [Byte of the Apple]: “So who won the PC wars, exactly?” by Peter Burrows: 27 August 2007

・BusinessWeek [The Tech Beat]: “Gateway–A Trip Down Memory Lane” by Stephen Wildstrom: 27 August 2007

・Ars Technica: “Battle of the Asian OEMs: Acer buys Gateway, thwarts Lenovo” by Eric Bangeman: 27 August 2007

・Blackfriars’ Marketing: “Battle of the Chinese computer brand buyers” by Carl Howe: 27 August 2007

・GigaOM: “PC Maker Gateway Sold For $710 Million To Acer” by Om Malik : 27 August 2007

・CNET: “Gateway: From PC powerhouse to buyout bargain” by Erica Ogg : 27 August 2007

・CNET Japan: “エイサー、ゲートウェイを71000万ドルで買収へレノボ抜き業界3位のPCメーカーに“: 28 August 2007

・Reuters: “Taiwan’s Acer to buy Gateway” by Sheena Lee and Sophie Taylor: 27 August 2007

・Reuters: “Wang deals Acer to No.3 with Gateway buy” by Sheena Lee: 28 August 2007

・BBC: “Acer to acquire Gateway for $710m“: 27 August 2007

・InfoWorld: “Lenovo’s plan for Packard Bell hit by Acer-Gateway deal” by Sumner Lemon and Dan Nystedt: 27 August 2007

・Engadget: “Acer to acquire Gateway: so long cow spots?” by Thomas Ricker: 27 August 2007

・Engadget Japanese: “エイサー、71000万ドルでGatewayを買収“: 27 August 2007

・New York Times: “Taiwan’s Acer to Acquire Gateway” by Matt Richtel: 28 August 2007

・Seeking Alpha: “Acer Sees Opening As Dell’s Trouble’s Deepen” by Mark McQueen: 28 August 2007

・MacDailyNews: “Surprise, surprise: It’s Apple that’s winning the ‘PC Wars’ after all“: 28 August 2007

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コメント / トラックバック6件 to “マーケットシェア神話の崩壊”

  1. Macとえいちやin楽天広場 Says:

    修理技術者泣かせ(?)の新iMac

     こん○○は!!ホイヤーです。本日の更新は 「マーケットシェア神話の崩壊」と「修理技術者泣かせ(?)の新iMac」他をご案内いたします。○アンクル・ホイヤーの独り言・・。 今日…

  2. ノブヒョン Says:

    パソコンソフトシェアの問題はユーザー側から見れば、少し不便なこともありますね。例えばGyaOが見られないとか。(このため、私の奥さんはWindows派になってしまいました)
    やはりMacシェアは伸びて欲しいですね。

  3. ノブヒョン Says:

    書き忘れました。WindowsはMacでやっています。こういう時代になったのです。

  4. ぺをを Says:

    「マッキントッシュ その赤裸々な真実」 で、著者のスコット・ケルビーが同じようなことを言ってますね。

    メーカーにとっては、利益を上げつづけることが大事なわけで、シェアそのものが目的なのではない、ということ。
    Macのシェアが少ないことを笑う人間は、そのことに気づけ、というふうに。

    シェアに関しては、ジョブズは以前から「Macのパソコン市場におけるシェアは、自動車市場においてのベンツやBMWのシェアよりずっと大きい」という言い方をしてます。
    ソフトウェアの問題もあるので、パソコンの比喩に自動車をそのまま使うのは若干詭弁の部分もありますけど、「シェアよりもブランド力を高めることで利益をあげる」という意味においては、このたとえどおりのことをジョブズはしてきてるわけですね。

  5. 土岐正造 Says:

    ジョブズが復帰した当時、Appleのシェアの低さを問われて、フェラーリやポルシェはもっとシェアが低いが誰も倒産の心配なんかしてないじゃないかと語っていましたが。

    実際、iMac発売以降、ちゃんと黒字になっていたのはDellとAppleだけで、他社はシェア維持のために慢性赤字体質になっていましたからね。当時は強がりと揶揄された物ですが、「健全な利益が必要だ」というジョブズの言葉の正しさを実感します。パソコンが成長期から成熟期に入った時期だからこそ、そういう考えが見直されるのでしょうね。

    それと、世界恐慌の時代、マフィアが成長したのは禁酒法の恩恵はもちろん、彼らが現金商売だったからと言うのが大きいと言われますね。日本でも、利益が薄くても毎日確実に日銭が入る商売は運転資金の確保が出来るので強いと言われますが。「収益を維持すれば、あと一日は生き延びられる」と言うのは、商売の古くて新しい真実なんですね。

  6. 頭文字S Says:

     いつも楽しく読ませいただいていますが、今回の記事で、シェアが低いと揶揄されるAppleがますます元気になっていく理由がよく分かりました。私も知らぬ間にシェアという言葉の魔力に毒されていたようです。結局、利益アップには「量(シェア)」ではなく、「質」が大きく貢献するということでしょうか。
     たしかに国内企業などを見ると、戦略上、利益を上げるにはシェアの拡大が必要という考えがこれまで支配的だったように思いますが、いつの間にか(バブル崩壊後辺りから?)、シェアを上げるのが最優先となって、利益は二の次にして薄利多売に突っ走っていくといった本末転倒な戦略に切り替わってしまったようですね。安いというのは消費者としては有難いですが、その頃から日本の商品が促成的というか「練り」がなくなり、使い勝手も悪くなって魅力が薄れていったように感じてます。電池発火事件など相次ぐ日本製品の不良問題なども根っこは同じように思います。そういえば、この辺りの状況を経済誌ではすでに「利益なき繁忙」などとその危険性を指摘していました。
     iPod裏面の鏡面仕上げなどに見られる(「指紋が付いて困る」などの短慮な批判には全く動じない)確固卓越したクラフトマンシップがAppleの神髄のように思いますが、日本の根幹を支える製造業でも現在の閉塞感を払拭すべく、戦略を再構築するなどして頑張っていって欲しいと願うばかりです。

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