Jobs の本当の狙い

$399

iPhone の大幅値下げについては多くのひとが話題にしている。

批判的なひとが多い中で、Carl Howe はこれは iPhone を本流の製品に導くために(to take the gadget mainstream)必要な措置だったという。

いささか長文の記事だが大変興味深いので、ポイントの部分だけ抜き出して以下に紹介する。

Blackfriars’ Marketing: “The gutsy marketing and strategy behind Apple’s iPhone price cut” by Carl Howe: 20 September 2007

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これはアップルが仕掛けた戦争だ

みんながよく分かっていないのは、アップルが携帯電話業界に対してバリューチェーンそのものを変えてしまうマーケティングの戦争を仕掛けようとしているということだ。みんなはアップルがどの塹壕に篭ろうとしているのか知ろうとしているが、Jobs はジェット戦闘機に乗って空から局部攻撃を仕掛けているのだ。

What people don’t get is that Apple is waging a marketing war to reshape the value chain for the mobile phone industry. Everyone is trying to figure out which trench Apple is occupying, when Jobs is flying in jet fighters for surgical strikes.

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双方にマイナスしかもたらさないバンドル

消費者は価値に対して対価を支払う。彼らはタダだと見なしたものには価値を認めない。それこそが、米国の携帯電話業界が過去10〜15年の間マーケティングに持ち込んできた過ちなのだ。携帯キャリア各社は、「無料」で特徴のない電話機と携帯電話サービスをバンドルすることによって、携帯電話機メーカーのブランド価値も、また自らのサービスそのものもずっとこれまで貶(おとし)めてきたのだ。電話機製造メーカーは、キャリアが無料の電話機には低い価値しか置かないことによって傷つけられ、コスト削減以外の意欲を失ってきた。キャリアもまた電話機メーカーに対し補助金を払わなければならないことによって傷つけられてきた。その額は2年の契約期間で 150 ドルから 250 ドルにも達し、無料の電話機を買い上げるのと実質同じになってしまっている。双方に利益をもたらす取引(win-win deal)について聞いたことがあるかもしれないが、これは双方にマイナスしかもたらさない取引(lose-lose deal)なのだ。

Consumers value what they pay for. They don’t value things the perceive as free. And that’s the marketing blunder the US mobile phone market has bought into over the last 10 to 15 years. By bundling “free” and generic phones with cell phone service, mobile carriers have devalued both the brand values of the handset makers and their own services. The handset makers are hurt because the low values that carriers will pay for free phones eliminates the incentive for those manufacturers to do anything but cut costs. The carriers are hurt because they have to pay subsidy fees to the handset makers of anywhere between $150 and $250 over a two-year contract to actually buy those free handsets. You’ve heard of a win-win deal? This is a lose-lose deal.

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価値に対する考え方を逆転させる

アップルのやったことは、価値に対する考え方を逆転させようとしたのだ。アップルはまず消費者がセクシーだと考えて欲しがるような電話を造り出した。とても欲しくて実際に 400 ドルないし 600 ドル(地域によって異なるけれど)支払おうとする電話だ。みんなが欲しがるので、アップルはキャリアに対し独占契約まで要求できる。キャリアにとってみれば、iPhone を対象とすることで貴重な差別化が可能になり、そうでないキャリア(そうだ、あなたたち Verizon および Vodaphone のことをいっているのだ)に対して有利に働くことになる。アップルはキャリアの差別化という貴重なものを提供するので、キャリアがこれまで携帯電話機メーカーに流してきた補助金の流れを手にすることができる。どうせこのカネはこれまで「無料の」、したがってパッとしない電話機に払ってきたものなのだから・・・

What Apple has done is inverted the value proposition. It has created a phone that consumers see as sexy and desirable, so desirable in fact that they will actually pay $400 to $600 for one (depending on geography). And because the device is desirable, Apple can demand exclusive deals with carriers, which creates valuable differentiation for those carriers that have iPhones and disadvantages for those that don’t (yes, I’m talking about you, Verizon and Vodaphone). Because Apple is providing valuable carrier differentiation, Apple can then capture the subsidy revenue stream that the carrier would have normally paid to the handset manufacturers anyway for “free” (and undesirable) phones.

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消費者のための価格が 399 ドル

もしアップルが iPhone の価格をゼロにしていたとしたらこんなことが起きただろうか。そんなことはあり得ない。

Now, if Apple were to cut the iPhone price to zero, would any of this be happening? Not a chance.

そうだ。アップルはかつて iPod でやったのと同じことをまたやっているのだ。初代の 5GB iPod は 2001 年に 399 ドルで発売された。今や 16GB iPod touch が、そう、 399 ドルで売られている。アップルはこの価格を消費者の要求と利益に基づいて設定しているのだ。つぎつぎと機能を加えることにより、消費者が買いたいと思う価格は価値をベースにしたもの(value-oriented price point)により近づいていく。それでもなおアップルは、新しくて、もっと欲しくなるような製品を従前の価格で出すのだ。こうしてアップルがエンジン全開で走り続ける限り、どんどん利益を出し続ける。残りの携帯電話機メーカーはどうしたらいいのかと頭を悩ますことになる。

So Apple is going to use its iPod playbook all over again. The original 5 gigabyte iPod went on sale for $399 in 2001. Today, a 16 gigabyte iPod touch sells for — you guessed it — $399. Apple chose the price points based on consumer demand and interest. A constant set of features will move down the price scale to more value-oriented price points, but Apple will introduce new and even more desirable products at the old price points. And so long as it can keep that engine going, it will make money hand over fist. And the rest of the handset makers will bang their heads against the wall trying to figure out how they do it.

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携帯電話業界に価値転換をもたらし、iPhone を本流製品とするために考え抜かれたのが 399 ドルだという視点は大変興味深い。

家電製品が大衆商品となるためには 600 ドルが分水嶺だといわれたものだが、Jobs のイメージではそれが 399 ドルということか・・・

下げ幅の 200 ドルが問題なのではなく、399 ドルという価格が重要だということなのだろう。

さて、読者諸氏はどうお考えになるだろうか。

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4件のフィードバック to “Jobs の本当の狙い”

  1. Says:

    毎度、興味深い記事を楽しみにしています。
    $399 が重要なのは分かるとしても、そしてそれが iPod の時と同じ戦略なのであれば、なぜ始めからその価格にしなかったのか、なぜたった2ヶ月で値下げしたのか、がやはり問題ではないでしょうか。
    この点が、失敗なのか、戦略なのか、驕りなのか、転んでもタダ起きなかったのかが気になるところです。

  2. ノブヒョン Says:

    初代iPodが399ドルでしたか、もっと高い印象を与えていた記憶があったのですが。ただiPodは価格が下がった(実質的に)&アイチューンズストアが出来たことで、本格的に売れ出したのでしたね。初期は売れませんでした。iPhoneは発売される前から大騒動でした。このためAppleは強気で599ドルと吹っ掛けて来たのでしょう。それがいろいろな事情で、399ドルの適正価格に落ち着いたものだと思います。この手の商品は400ドルまでが適正だということでしょう。
    それより、アップルサイトがリニューアルされて上部のMac OS Xのボタンが無くなったのは何故なんでしょう。しかもLeopardが発売間近というこの時期に。この謎を書いたサイトはアメリカにもないのでしょうか?

  3. tasty Says:

    iPhoneもiPod Touchも買っていませんが、値下げの報道を聴いたとき嫌な気分になりました。
    以前から強くアップルを支持してきた人の多くがきっとそうじゃないでしょうか?
    あとずけで色々言い訳や解説があると思いますが、私は当分何を聴いてもシラケた気分ですねぇ。
    何故最初から(たった2ヶ月前)$399でいかなかったのか、傲慢さと冷静な判断を欠いたことにジョブスが何か?に焦っているのではと勘ぐってしまいます。
    値下げで喜んでいる人の方がずっと多いでしょうから、単に古い友人を捨て、より多くの利益をもたらすと思われる?新しい友人をとっただけかもしれませんね‥世の中よくあることと言えばそうですね 苦笑
    でも最初から$399にすれば両方の友人を得られるのに‥やはり誤った経営判断では??

  4. Macとえいちやin楽天広場 Says:

    「非常識な端末「iPhone」が変えたケータイ端末づくり」と「さよ…

     こん○○は!!ホイヤーです。本日の更新は 「さようなら!!コリン・マクレー」と「非常識な端末「iPhone」が変えたケータイ端末づくり」他をご案内いたします。○アンクル・ホイヤー…

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